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ポケットモンスター カオス&パニック
第17話『混沌と混乱』
ティファ地方首都ラディルを発って1ヶ月。
ラディルから東に進路を取り、旧フレシア王国領土内へと進入。
カネイルド要塞を経由し、その後南下……目前に現れたのはコード地方への一切の侵入を拒むテレサ山脈。
テレサ山脈はあまりに険しく、そして登る場所も無い断崖絶壁が広がる。
登山ルートはたった一つ、登山ルートと本当に呼んでいいのかわからないような道ではあったがとりあえず進むことはできた。
ただし、そこまで使用していた馬車は山を越えられないのでそこからは徒歩。
なるべくなだらかな道を見つけて登っていくが、直進することが出来ず登頂するまでに3日もかかった。
レイクリッド 「……」
頂上に到着すると途端に視界が広がり、まるでこの世界の全てが見渡せるような感覚だった。
レイクリッド王はふとフレシア王国の方を振り返ったまま立ち止まった。
シズク 「……」
私も同様に振り返ってみると、フレシア王国一杯に広がる草原が私たち旅団の前に広がっていた。
モトキ 「はぁ……寒ぅ」
立ち止まるとモトキさんが寒いと身体を縮こませ小さく震えていた。
山頂を吹き抜ける風はたしかに冷たく、気温も山の下に比べると大分下がっているのがわかった。
レイクリッド 「……行きましょう」
レイクリッド王の一言で全員が動き出す。
ここは場所で言えばすでにコード地方、エリュクスの領土内。
これまでの1ヶ月こちらの旅を邪魔する者はおらず、このコード地方内に入ってもそれは変わらなかった。
もし、レイクリッド王の暗殺を狙うのならこの登山中を必ず狙ってくると私は思っていた。
シズク (エリュクスの考えが一切読めない……)
わざわざ、暗殺を企てておいてここにきて本当に和平に応じようとしているのか?
それとも、あえて本国の戦力を皆無にする真似までしてそろえたラスフォルト部隊に攻めるに攻め入れない?
シズク (可能性としては考えられなくはない)
だとすると、一番ありえるのは首都での直接襲撃。
下手をすれば会談中の暗殺も十分ありえる。
こっちはあえて下手に出ているわけだから、当然対等の立場で話ができるなんて思えない。
もし最悪の事態が回避できないのなら、私はレイクリッド王の意志に背いても守らないといけない。
シズク (少し前までの私ならたとえレイクリッド王が相手でもそこまで命を賭けられたかしら?)
多分不可能だったと思う。
この世界は私を……いえ、私だけじゃない。
皆何かを変えていった。
私は最初この世界に来た時、元の世界に帰ることで一杯だった。
親友だったヒミコの裏切り、RMUに謀られ追われる者になった身。
シズク (冷静に考えればこの世界には私を縛る物は無い)
元の世界に帰れば所詮私は追われる者。
それでも私は元の世界に帰りたい。
私はまだヒミコを信じたい……。
ヒミコは確かにふざけたことを多々多くするけど、確かな正義感を持った女性だった。
私との仲は決して良くはなかったけど、私はヒミコを知っているつもりだ。
ソウヤ 「暗い森だなぁ」
ソウヤさんがボソッと呟く。
私たち旅団の誰一人としてこの森を見て、明るい顔をしている人はいなかった。
メフィーさんなんかはなんだか不安そうな顔さえしており、私でさえこのコード地方の深く暗い森はなんだか恐怖感を覚えた。
ザワザワ、ザワザワァッ!!
シュン 「! な、なんだ?」
森へ入ってすぐだった。
なんだか森が揺れている。
なんの気配も感じないのにそこに何かがいるような気がした。
ザザ……ザザザザザザァァッ!
レイクリッド 「!? い、一体なにがっ!?」
森が揺れている。
不意に何か異様な気配を感じた。
何かがいる……それが何かはわからない。
ただ、なんだかとてつもなく嫌な予感がした。
シズク 「!? 上ッ!?」
私は真上に何か危機感を覚えた。
瞬間、何か……黒い何かがレイクリッド陛下に襲い掛かる。
シズク 「あぶないレイクリッド陛下!」
私は咄嗟にレイクリッド陛下をその場から弾き飛ばした。
レイクリッド王子は突然のことに尻餅を着いて倒れたが、何事もなくその場は安心する。
だけど……。
シズク (馬鹿ね……他人を庇うなんて)
ギュオオオオオオッ!!!
黒い何かが私を襲う。
私は身動きさえとれず、その何かに……飲み込まれた。
レイクリッド 「!? シズクさーんっ!!?」
シズクさんが私を突き飛ばした瞬間、黒い何かに飲み込まれるようにその場から消えた。
地面が多少その黒い何かに抉られ、足場にはシズクさんが頭に着けていたバンダナの切れ端が落ちていた。
メフィー 「う……嘘……嘘でしょ!? ねぇフィーナちゃん! こんなのってないよね!? こんなのって!?」
シュン 「そんな……シズクが……死んだ?」
ネロ 「く……馬鹿野郎がっ!」
あまりに唐突なことに全員動揺が隠せない。
あのシズクさんが……こんなにも……あっけなく……。
ザザザ……ザザザザザァァァッ!!
再び森がざわめき始める。
また来るのか……あの黒い何かは!?
シャミ 「! レイクリッド陛下ここは退くべきだ!」
レイクリッド 「くっ! 全員戻れ! ここは危険だ!」
フィーナ 「く……逃げるよメフィー!」
メフィー 「う……うう……うわぁぁぁぁっ!?」
私達は一目散に来た道を逆に戻り森を抜ける。
ザザザァ……ザッ……。
『何か』は私たちが森から出ると襲ってはこなかった。
まるで森の外には出られないかのように森はざわめき、揺れていた。
シュン 「はぁ……はぁ……くそ! なんだってんだよ一体!?」
フィーナ 「似ている……私を襲った『何か』に……」
ソウヤ 「兵器か? それとも生き物か?」
レイクリッド 「わかりません……」
アレは私にも理解不能だった。
突然目視できない何かが襲ってきて、一瞬のウチにシズクさんを飲み込んで消えてしまった。
もしシズクさんが助けてくれなかったら私が消されていただろう。
メフィー 「ど、どうするんですかレイクリッド様!?」
レイクリッド 「……退却します、アレが何か分らない以上私には皆さんの安全を保障できない……」
あれがコード地方に生息する何かなのか、それともエリュクスの兵器なのかはわからない。
だが、軽率な私の性で大切な人を一人失ってしまった。
これ以上の被害を出すわけにはいかない。
ネロ (……どうも気になるが確証が得れねえ)
ネロ (あの地面の抉り具合……爆発したとか、ぶっ叩いたとか普通のエネルギーじゃない……まるで消し飛んだようだった)
レイクリッド 「皆さん申し訳ない……私の不注意で」
ネロ 「こんなところで愚痴っている暇ねぇ! 無駄口叩く暇があったらコード地方から少しでも離れろ!」
ネロさんは私に一喝し、今は迅速な行動を促してくる。
私はそれを受けて、再びテレサ山脈を登るのだった。
男性 「コード地方でアズナードの使節団を襲った黒い正体はわかるか?」
仮面の女性 「さて……私にもわかりませんね『ご主人様』」
ティファ地方旧ガリア領に、とある小屋があった。
小屋は小さいが、そこにはこの世界では異様な身なりの男女がいた。
170センチ程度、ガタイのいいご主人様と呼ばれる男は、戦闘服のようなスーツに全身を包み、壁にもたれかかっていた。
対してこの男性をご主人様という女性は、女性であるにも関わらず黒いスーツを着込み、面が割れるのを嫌っているのか顔面を覆う仮面を被っていた。
男性 「エリュクスの何かか……正体が掴めなければ我々も動けんな」
仮面の女性 「あら? 今は動くのは得策ではないのでは?」
男性 「たしかに、今は戦力を整えるのが先決だ」
女性 「……帰ってきたわよ」
突然、二人の元に一人の女性ととある男性が帰ってきた。
男性の方が、既に知っている顔だ。
メシア 「……おい、ラファこいつらが?」
ラファと呼ばれる女性と一緒に小屋に現れたのはメシアだった。
ラファはコクリと頷いてメシアに説明を始める。
ラファ 「ええこの二人が私たちラスフォルトの義勇軍『誓い』のリーダーと副リーダーよ」
男性 「よく来てくれた、リーダーのカイツだ」
カイツと呼ばれる男はそう言うとメシアに握手を求める。
しかしメシアは握手を拒むようにそっぽを向いた。
仮面の女性 「やれやれ……これはまた無愛想な人ですね、私はアイヴィとでも名乗っておきましょうか」
メシア 「け……メシアだ。この俺を引き込むとはいい度胸だな」
カイツ 「この世界は今、緊迫に包まれている戦争と言う緊迫にな」
カイツ 「戦争は遅かれ早かれ起きてしまうそのためにそれを止める力が必要だ」
カイツ 「我々義勇軍の誓いとは、この戦争を止める誓いだ」
メシア 「へ、まるで聖人君主だ」
カイツ 「……そうかもしれないな。だが俺は戦争の空しさを知っている……戦争は……何も生まない」
メシア 「……アンタのところにいれば戦えるんだろう? だったら俺はここに居てやる」
ラファ 「戦争の阻止は私も賛成よ」
アイヴィ 「私はご主人様に従いましょう」
――それはティファ地方にある謎のラスフォルト集団『誓い』。
…………。
リス 「――レイクリッド現王率いるアズナード使節団の話は聞いたか?」
肌寒いジナ地方の夜、私はリスにテラスへと呼ばれていた。
リスは分厚いコートを着込んで城下を見下ろしていた。
私はそんなリスの隣に立ち。
リン 「ラスフォルトの犠牲の話? それなら聞いたわよ」
ティファ地方とコード地方の境でアズナード使節団を襲った謎の物体。
アズナード王国ラスフォルト部隊の隊長がこれによって『死亡』したと聞いている。
リス 「これから戦いはクラスアップする……すでに弱者の抗う世界ではなく、強き者が更に強くなるだろう」
リス 「そしてそれは……君たちラスフォルトの犠牲も生む……」
リン 「死ぬのは怖いわね、逃げ出したくなっちゃう」
私は半分冗談半分本気にそう言う。
するとリスは事の外真面目に。
リス 「本当に命が危ないと思ったら逃げるんだ、君たちはもっとも失ってはいけない尊い戦力なのだから」
リン 「尊い戦力ね……」
リスの意外な言葉に私は星空を眺めながら呟いた。
リスは一体何を考えているのか……。
ラスフォルト部隊にも最近リスに若干不信感のような物を抱いている人もいるみたいだし、リスの動向は気にしないといけない。
私もまだこの世界で土に帰るつもりは無いからね。
アズナードの馬鹿なラスフォルトとは違ってね。
リン 「で、どうするの?」
リス 「一体何がかな?」
リン 「アズナード、そしてエリュクス」
私はリスはテラスにもたれかかりながらリスの横顔を見る。
私にはこれからあの両国がどういう動きを見せるかわからない。
リスは少なくとも両国とは交わるつもりはないらしい。
それが何故なのかはわからない。
たしかにアズナードもエリュクスも国交さえないのに、相手を信用しろと言う方が無理というのはわかるけど。
リン (それにしてもリスは周りを敵対しすぎる)
時にそれは不必要と思うほどに。
リス 「もし未来が見えるのなら、こんなに不安になることもないのだろうな」
リン 「……あなたらしくないわね」
今初めてリスの弱音を聞いた。
普段リスはどんな時でも自分の弱いところを見せようとはしなかった。
それがリスの頼もしい所であり、不思議な魅力でもあった。
でも、今私の前のリスはそんな自分を護る言葉の鎧を捨てている。
リス 「アズナードはどこまで信用できる、エリュクスは? 私にはどう対応すればいいのか、正直わからない」
リン 「わかるから安心ではないわよ、明日死ぬという予言を受けて平常でいられたらそいつは聖人か虚者よ」
リン 「私は少なくともリスの判断についていくわよ、もう乗りかかった船だしね」
リス 「たとえ死ぬとしても?」
リン 「安心しなさい、死ぬ前に逃げるわよ」
リス 「死ぬなよ」
リン 「言葉は時に裏切るわよ? でも、絶対じゃないからこう言ってあげるわ、あんたよりは生きて長生きしてやるわ」
私がそう言うとリスが微笑を浮かべる。
私はそれを見ると私もクスッと笑うのだった。
これまで虚ろだった。
人は人であるが故やはりこう考えるしかないのか、私は大丈夫だ、私は死なないと。
だが、例えラスフォルトでも現実にアズナードでひとり死んだ。
もうすでにラスフォルトは絶対無敵ではない。
ラスフォルトとて所詮は人間でしかないのだから。
だからこそ、それが恐怖になる。
無敵という言葉の鎧が脆くも剥がれ落ちた時、私たちは嫌が応に死の恐怖と直面しないといけない。
現実に考えれば、恐怖しない方がおかしい。
飛び交う無数の弓矢、襲い掛かる雷、炎。
落石、地震、殺気立つ敵たち。
少しでもアンラッキーだったら私たちはすぐにでも死ぬことができるんだ。
それ位……私たちは脆弱な存在に過ぎない。
リス 「アズナードのラスフォルトが死んだことを知っているのは?」
リン 「私とキサラだけよ、知らない方が不安がない分いいわ」
リス 「そうか、くれぐれもあまり他言はするなよ?」
リン 「訃報なんて誰だって聞きたくないでしょ」
人間のネガティブは時に波紋を広げ、伝播する。
対人戦闘皆無の私たちがそんな報告を聞けば、ひとり自分もそうなると考えると、それが要らぬ士気の低下に繋がることもある。
士気が下がるだけならばいいが、それが死への恐怖となり戦場での肉体の硬直に繋がれば、もうそれは悲惨だ。
恐らくアズナードにしろエリュクスにしろ私たちへの攻撃は躊躇いなどなくしてくるだろう。
だからこそ、こういった些細な情報操作も必要になる。
リン 「リス……あなた……」
リス 「? どうしたリン?」
リン 「……いえ、なんでもないわ」
私はリスにあることを言おうとしたが、途中で首を振って言うのを止める。
正直馬鹿馬鹿しいと思いながらもやはり不安だった。
リン (リス……死なないでね)
…………。
フライ 「――ッ!? ?」
突然だった……頭を叩かれたかのような痛みが頭に走った。
理解が出来ない、でも嫌な予感はした。
サムソン 「どうした?」
フライ 「なんでもないわ」
アニマ 「大丈夫です」
フライ 「なにがかしら?」
アニマ 「大丈夫です」
フライ 「……」
アニマのお姉さんは不思議とそう言葉を繰り返した。
私には何がなんだかわからないが、考えても仕方ないと思い大丈夫としておく。
フライ 「外出許可の無い私たちは一体どれくらいここにいさせられるわけ?」
サムソン 「俺はすでに2ヶ月は外に出てないがな」
アニマ 「……」
サムソン 「アニマのネーチャンは1年以上は確実か」
フライ 「……そう」
私たちラスフォルトで外出許可を持っているのは唯一ミクのみ。
エリュクス帝国皇帝リオンはよほど私たちを信用していないようで、実質私たちはミクにとっての人質の役割もあるのだろう。
フライ 「ところで『見えない何か』は今どこにいるのかしら?」
サムソン 「? どこって?」
フライ 「圧迫感が消えているわね……また動いているんでしょ?」
私には確証を持って言うことはできないけど、あの『見えない何か』は何かの雰囲気を持っている。
私はそれを圧迫感としてただ漠然と感じていたが、それが今ここにはない。
アニマ 「……」
フライ 「お答えできないか、しょうがないわよね」
アニマのお姉さんはだんまりを決め込んでいる。
アニマのお姉さんなら知っているんだろうけど、お姉さんは何も語ることができない。
アニマのお姉さんの弱みとは一体なんなのか?
フライ (シズクちゃんは元気かしら?)
ふと、アズナードの皆のことを考えてしまう。
アズナードの皆にはもう随分迷惑をかけてしまっている。
せめて皆無事だといいのだけれど。
ここにいては折角エリュクスのことを調査に来たというのに全くそれが果たせない。
ひとえにティファ地方とコード地方でここまで文明力に違いがあるとも思わなかったしね。
せめてアズナードの情報だけでも手に入れられないかしら……?
サムソン 「考え込むだけ無駄無駄」
フライ 「?」
サムソン 「何も俺2ヶ月ずーっとぼーっとしていたわけじゃないのよ?」
サムソン 「ただ、何にもできないからこうしているだけ、個人できることはたかがしれてらぁ」
サムソンは寝転がりながらそう言う。
サムソンはいつ人を見ているかわからない。
それゆえに時々、言ってもいないのに核心を突いてくることがある。
あるいはここを脱出するにはサムソンさんがもっとも重要と言えるだろうけど、私たちは動くことはできない。
ひとえに一番の恐怖は『見えない何か』。
アレをどうにかできないことには、私たちはそもそも八方塞となる。
フライ 「ミクさんは何時帰ってくるんでしょうか?」
サムソン 「速い時は今日には、遅かったら来月とかかな?」
フライ 「つまり不定期」
サムソン 「そゆこと」
つまりそれだけエリュクスはミクさんを重宝しているということ?
少なくともミクさんは随分エリュクスの人たちから信頼されているようだった。
サムソンさんはさしずめ、ミクさんの働きを待っているのかしら?
フライ 「籠の鳥か」
自力では抜け出すことは敵わない。
誰かの手引き無しには不可能。
アニマさんがよくわからない以上、私とサムソンさんとミクさんの3人でなんとかするしかないか。
激動の時代の中核にいたラスフォルト、シズクの消失は様々な形で各国に波紋した。
ラスフォルトたちが活躍するようになって半年あまり、特その実戦での有用性を示したティファ地方のラスフォルトはまさに一騎当千、無敵の兵として賞賛された。
だが、その無敵神話はあっさりと終わることとなる。
アズナードのラスフォルトはその程度だったのか?
エリュクスの力がそれほどだったのか?
噂は噂を呼び、人々を迷宮へと誘う。
激動の時代、まだ人々がその真の危機に気づいておらず、平穏でいられると信じていた。
平穏が疑問に、疑問は不安へ、そして不安は恐怖となる。
『1ヵ月後 ティファ地方アズナード王国首都ラディル』
メフィー 「……た、ただいま帰りました」
あれから1ヶ月。
死んだかどうかさえわからないシズクちゃんの存在は波紋を呼び、国を混乱させていた。
空色も薄暗くどこか灰色で、人々は心なしか元気がない。
エリュクスへと旅立ったフライはあれから音沙汰無く、すでに生死さえ危うく思われている。
そして私たち、ラスフォルト部隊も一様の変化を見せているようだった。
フィーナ 「あ、お帰りメフィー……遅かったね」
メフィーちゃんは買い物袋を背負って屋敷に帰ってくる。
あれから一ヶ月、シズクちゃんが『消失』したことを嘆いていたのはメフィーだった。
まるで心にぽっかり穴が開いたみたいになってしまった親友に私は何度も声をかけた。
でも、それでも私はメフィーの心を癒せなかった。
メフィーにとってシズクちゃんがこの世界でどれだけ大きい存在になっていたのか……それが嫌でもわかってしまった。
まるで少し離れていた間にメフィーがシズクちゃんに奪われたみたいなのが嫌だった。
でも、こんな時にそんなことを考える私はもっと嫌だった。
フィーナ (どうしてこんなことになったんだろう? 私たちが一体何をしたの? 何故こんな目に遭わないといけないの?)
ここ最近ずっとそんなことを考えている。
馬鹿馬鹿しいよシズクちゃん……どうして一人勝手にいなくなっちゃうの?
私たちは何を信じればいいの?
何を頼ればいいの?
ネロ 「おうメフィー、街の様子はどうだった?」
メフィー 「……」
ネロ 「おい! 聞こえねえのかメフィー!!」
メフィー 「……いつも通りでした」
メフィーはそれだけ言うと買い物した荷物を置いて二階の自室へと戻った。
ネロ 「……ち! どいつもこいつも……!」
フィーナ 「……」
メフィー……ずっと俯いて私の顔も見てくれなかった。
ほんの一ヶ月前まではあんなに前向きだったのに、メフィー逆戻りしちゃっているよ。
あれじゃ、ハルカさんと出会う前に逆戻りじゃない。
私も……か。
スズ 「隣いいかなフィーナちゃん?」
フィーナ 「あ、はい」
私の座っていたテーブル席の隣にスズさんが腰掛ける。
ここ一ヶ月で特に変わった様子は見せなかったスズさんだけど、スズさんも何か変わったのかな?
スズ 「人は、儚く……まるで硝子のように脆く、陶磁器のように繊細なものだな」
フィーナ 「?」
突然普段無口なスズさんがゆっくりと喋り始めた。
一体どうしたんだろうと思ったけれど私はそれを素直に聞くのだった。
スズ 「人は変わるのを拒むし、変わられるのを恐れる……変わらない物など何一つないのにな」
スズ 「君も、メフィーちゃんも……ね」
フィーナ 「……メフィーも……ですか?」
スズ 「自分の中で変わった物がわかったから、それを認めるのが怖い……」
スズ 「自分が変わったから相手の変わった姿を見るのが怖い……」
スズ 「相手が好きだから、好きだからこそそんな自分を見せるのが怖くなるのさ……俺のように」
フィーナ 「……スズさんも?」
スズ 「……どうもフィーナちゃんたちを見ていると昔を思い出してね」
スズさんはそう言うと俯いて悲しそうな顔をした。
スズさんにも今の私たちのような経験をしたと?
だとしたらその時スズさんはどうしたんだろう?
フィーナ 「スズさんも誰かが怖くなったんですか?」
スズ 「ああ……相手の気持ちさえ理解しようとせず、逃げ出すほどにね」
フィーナ 「……」
一見しっかりしてそうなスズさんでもそんなことがあるんだ。
いや、完璧な人間なんているわけがないのかもしれない。
スズさんも言っていたけど人間って弱いものだから。
フィーナ (メフィーも……私の前から逃げていくの?)
スズ 「俺は一度諦めてしまった……その結果を取り戻すにはあまりに過酷な運命が待っていた」
スズ 「そう……心が折れ、魂が凍りつくかと思えるほどに、ね」
スズ 「君たちに俺のように生き地獄を味あわないでくれよ」
シュン 「……ふん!」
フィーナ 「あ」
スズ 「! シュン!?」
突然2階からシュンさんが現れる。
さっきの話を聞いていたのか、普段ならスズさんを見つけても無視を決め込むにも関わらず私たちに近づいてきた。
シュン 「何が『俺のように』……だ!」
シュン 「全部自分が悪いみたいに被害者ずらしやがって……だからお前はアカネを傷つけたんだろう!」
スズ 「! ……ッく」
シュン 「僕は絶対にアンタを認めない! あいつはずっとアンタを信じていた! アンタを信頼していた!」
シュン 「それなのに……お前はそれを裏切ったんだからな!」
スズ 「……わかっている、それくらい……わかっているさ!」
シュンさんがスズさんに見せる激情はいつも通りだったけれど、この時珍しくスズさんがうろたえているように感じた。
シュンさんとスズさんの確執はわからないけれど。
もしかしたらその、『すれ違い』がこの二人の関係の原因なんだろうか?
一緒に住んでいるのに理解を求めず、一方的に相容れないこの二人。
私も……私たちもいつかこうなっちゃうの?
モトキ 「うるさいなぁ……もうっちょっと静かにしてよ」
スズ 「……ああ、すまない」
シュン 「ふん!」
突然一階の奥からモトキさんが五月蝿そうにリビングへと現れた。
興を削がれたのかシュンさんはそのまま2階へと戻るのだった。
同様にスズさんも席を立ち、外出するのだった。
モトキ 「……相変わらず犬猿の仲と言おうか、水と油と言おうか」
フィーナ 「そ、そうですね」
シュンさんとスズさんの口喧嘩はもう日常茶飯事。
シュンさんは基本的に誰とも仲良くしたがらなかったけど、ここ最近は特に酷い気がする。
元々スズさんとソウヤさんとは全く相容れない仲ではあったみたいで、私たちともそう仲は良くなかった。
それでもシズクちゃんがいた時はシズクちゃんのことすごく信頼していたし、メフィーとも仲が良かった。
それなのにメフィーは皆を拒絶し自分の殻に閉じこもるし、シュン君は誰とも喋ってくれなくなった。
フィーナ (いざ喋っても喧嘩ばかり……これからどうなっちゃうんだろ)
モトキ 「みんな難しく考えすぎだろ、なんで変わる必要があるんだ?」
フィーナ 「きっとそんな単純な話じゃないんですよ、シズクちゃんが居なくなったのは」
モトキ 「そんなにシズクちゃんが『死んだ』ことが、みんなを変えるのか?」
フィーナ 「!?」
ネロ 「――ッ! モトキ!!」
モトキ 「!? は、はいぃ!?」
厨房からネロさんが怒声を上げてモトキさんを呼んだ。
こういうパターンは大抵説教パターンなのでモトキさんもビクっとしていた。
モトキ 「な、なんでしょうか隊長代理?」
ネロ 「てめぇ……この大変な時に何デリカシーねぇこと言っているんだよ、ああん?」
ネロさんがヤンキー真っ青の顔でモトキさんに歩み寄ると明らかに顔を蒼くしてモトキさんが後ろ一歩後ずさんだ。
ネロ 「おいモトキ、俺はこの隊の何だ?」
モトキ 「は……はっ! 隊長代理殿であります!」
何故か三等兵モードのモトキさん。
とはいえ、ネロさんも鬼軍曹モードに入っちゃっているので気持ちはわからなくない。
まぁ……鬼軍曹と言うより極道だけど……。
ネロ 「じゃあなんで俺が隊長代理だと思ってやがる!? 死んだと確認されてねぇから俺が隊長代理なんだろうが!!」
モトキ 「は、はい! 失言でありました!」
ネロ 「わかったら二度と死んだなんて言うんじゃねえぞ!!?」
モトキ 「ら、ラジャー!!」
考えてみればモトキさんってネロさんに説教されてばっかりなイメージがある。
モトキさんは戦時中はネロさんと一緒に介護救援班に配属されるからモトキさんはネロさんから色々な指導を受けていた。
ネロ 「大体テメェはいつも何ひとりだけ自分は違いますよって顔してんだ!」
ネロ 「いいか! てめぇみてえな空気読まない奴が居るだけで隊の空気が乱れんだよ!」
ネロ 「この場で聞いたのが俺とフィーナだけだったが! メフィーが聞いたらあいつどんな顔すると思ってたんだ!?」
モトキ 「す、すいません!」
ネロ 「てめぇ、なんなら指詰めてやろうか? ああ?」
モトキ 「い、いえ! 結構です!」
ネロ 「……たく、最近の若い奴は……おうフィーナ、気悪くしたな」
フィーナ 「あ、いえ……」
ネロさんは怖いけど、いつも皆を心配してくれている。
モトキさんやシュンさんなんかは怒られてばっかりだけど、皆それはネロさんが本気で心配してくれているって知っているから誰もネロさんを嫌わない。
本当は、ネロさんが一番辛いんじゃないかな。
ネロさんは厳しい故に、優しいところがあるから。
ネロさんはよくシズクちゃんに小学生の癖に頑張りすぎだって言ってた。
フィーナ (考えてみればシズクちゃんって皆と仲が良かったよね)
特にメフィーとシュン君とソウヤさんとは、最初の頃の作戦から一緒だからか凄く仲が良かった。
新参者の私たちのも優しくしてくれたし、隊のために頑張ってくれた。
ここでシズクちゃんに感謝していない者はいない。
でも、私はふと思ってしまうことはある。
皆シズクちゃんに引きずられすぎじゃないのだろうか?
私だって認めたくないけれど、シズクちゃんが居ない以上死んだのと一緒じゃない。
シズクちゃんがいないという現実にみんな影響を受けすぎじゃないだろうか……。
それとも私やモトキ君はシズクちゃんとはそんなに面識がない……だから淡白になれるのかな?
ネロ 「……おし! 決めた!」
モトキ 「へ? 決めたってなにを?」
ネロ 「てめえらの性根を叩きなおしてやる! おいモトキ! 全員を外に集めろ!」
モトキ 「ら、ラジャー!」
フィーナ (い、一体何をする気?)
一体何をする気なのかネロさんは突然外にラスフォルト部隊のみんなを集めた。
ソウヤ 「一体何をする気だ?」
シャミ 「さぁ? それよりスズだけ姿がないようだが?」
フィーナ 「外出しちゃったからそのうち帰ってくるかと」
メフィー 「……一体なにさせられるんだろう」
シュン 「さぁ? どうせロクなことじゃないだろ?」
ネロ 「そこ! 私語を慎みやがれ!」
私たちがザワザワしているとネロさんに注意される。
ネロ 「これから、特別訓練を始める!」
モトキ 「く、訓練でありますか?」
ネロ 「今回はポケモンバトルの訓練だ!」
ネロ 「てめえらポンコツどもの相手はこの俺が直々にやってやる! 死ぬ気でこい!」
ネロ 「もし手ぇ抜くようなことがあったらてめぇら……晩飯は抜きだと思いやがれ!」
フィーナ 「ひょ、ひょええ……ネロさんって……あのミカゲを結構追い詰めたほどの猛者だよ?」
いきなりネロさんがとんでも発言をしてくる。
ぶっちゃけ周りを見渡してみるが誰もネロさんに勝てそうにないんですが?
ソウヤ 「あ、あの質問っす! 俺ポケモンもってないんですけど!?」
ネロ 「ああん? てめえらは体でかかってきやがれ! 遠慮はいらねぇ!」
ソウヤ 「体って……いいのか?」
ネロ 「俺のポケモンはこいつらだ!」
ネロさんはそう言ってポケモンをボールから出す。
ヒードラン 「ヒードッ!」
ボーマンダ 「ボーッ!」
ザングース 「ザン!」
サーナイト 「……」
シュン 「!? で、伝説のポケモンがっ!?」
でた……あのミカゲのミカルゲといい勝負した伝説のポケモンヒードラン……。
ていうか、こんなの勝てるわけ無いよ!
ネロ 「おし、まずはモトキ!」
モトキ 「は、はい!」
ネロ 「勝負は1対1! 勝負の結果は俺が決める! 戦いたい一匹を選びやがれ!」
モトキ 「は……はぁ、じゃあ……えと、ボーマンダで」
フィーナ (うわ……モトキさん、なんで激辛チョイスなわけ?)
ていうかモトキさんって戦えるの?
少なくともネロさんは鬼畜クラスのトレーナーだよ?
ネロ 「ほう、いい度胸だ……で、お前の選ぶ一匹は?」
モトキ 「お、おし! 大いなる水の息吹よ! 優しき眼差しに意思を写し、我の前に姿を現せ!」
モトキさんは携帯を取り出し、なにやら呪文を唱えると一匹のポケモンが姿を現した。
ラプラス 『わぁ、モトキ久しぶり』
モトキ 「いきなり悪いが、ポケモンバトルだ」
ラプラス 『バトルって……ボーマンダ!? うわぁ……僕なんだか嫌な予感がする……グロウの時もあんまりいい思いしなかったし』
モトキ 「大丈夫! 相性はお前の方がいいんだから! とにかく原作者も待ち望んだ俺たちの出番なんだ! 頑張ろうぜ!」
ラプラス 『まるでどこかの地味な通行人みたいだね』
ソウヤ 「ああ、奴は2対1を者ともしない化け物だったなぁ」
シュン 「ソウヤ、お前ネタを……」
ソウヤ 「……」
……なんだか私の知らないネタで盛り上がられている。
まぁ、とにもかくにもモトキさんはやる気満々だった。
考えてみればモトキさんが戦う姿って初めて見るなぁ。
ネロ 「おう、ボーマンダ、いっちょ頼むぜ?」
ボーマンダ 「ボーマ♪」
ボーマンダはネロさんの掛け声で一気に空に飛び上がる。
モトキ 「よぉーし! やっと回った出番なんだ! 張り切って目立つぞ!」
モトキ 「まずは動きを止めるんだ、『なみのり』!」
ラプラス 『はーい!』
ラプラスは大波を作り、大波がボーマンダを襲う。
それそのものがたいしたダメージになるとは思えないがモトキさんの不自然な強気……策があると見るべきか。
ネロ 「……くだらねぇ、ボーマンダ、『ハイドロポンプ』!」
ボーマンダ 「ボーマッ!!」
ボーマンダは口から強大な水柱を生み出し、それは大波をいとも簡単に突き破ってしまった。
当然その結果ボーマンダはノーダメージ、まぁラプラスもノーダメージだけど。
モトキ 「うげ!? それは予想外! だけど俺はその上を行くぜ!」
ネロ 「おう! てめぇの全力見せてみやがれ! ボーマンダ、『ドラゴンクロー』!」
ボーマンダ 「ボーーッ!!!」
ボーマンダは上空からラプラスに強襲する。
陸上で、しかも動きの鈍重なラプラスにこれは回避できないだろう。
なんとか一撃耐えてカウンターを仕掛けるというのが定石かな。
モトキ 「吹雪け! 一陣の粉雪よ! 風を纏いて我を隠せ! 『霰陣乱舞!』」
どこから持って来たのか竹箒の先端から粉雪と強風が噴出し始めた。
モトキさんお得意の魔法攻撃のようで、杖から飛び出した粉雪はボーマンダの顔面を覆い、ボーマンダの体を覆い始めた。
フィーナ (うわ……ある意味えげつないなぁ……とはいえ、これが世界別のギャップか)
まるで○UGENの作品別大会みたいなものか。
言ってみればそれぞれの作品で使われているシステムの違いみたいなものね。
モトキ 「今だ! タイム、全力の『ふぶき』!」
ラプラス 『了解!!』
モトキ君は身動きの取れないボーマンダに必殺の一撃のような命令を出す。
ボーマンダは氷がとにかく弱点だ、これを喰らえばいかにレベル差があっても。
ネロ 「おもしれぇ……引き出しを増やすなら俺も見せてやるよ!」
モトキ 「へ?」
ネロ 「『δ』(デルタ)モードだ! ボーマンダ!」
ボーマンダ 「!! ボーッ!!!」
モトキ 「はいぃ!?」
ボーマンダは体に纏わりつく粉雪を吹き飛ばすと、赤いオーラを全身から放っていた。
直後襲い掛かる『ふぶき』だが、ボーマンダは全く意味がないといった雰囲気でラプラスを強襲する。
ネロ 「てめぇの顔は見飽きたぁ!! 『だいもんじ』!!」
ボーマンダ 「ボーーーッ!!!!」
ボーマンダはラプラスの顔面で止まると、口に溜め込んだ炎を一気にラプラスに押し付けた。
ラプラス 『う、うわぁぁぁぁぁっ!?』
モトキ 「た、タイム!?」
ラプラスは不意の一撃で簡単にダウンしてしまう。
正直私にも何が起こったかはわからないけど、わかったことは今の状態のボーマンダは氷が弱点じゃない。
そして炎技の威力が明らかに高い。
『δ』(デルタ)……まさかタイプ変化?
ラプラス 「やられちゃいましたぁ」
モトキ 「……くっそう……ごめんなタイム」
ネロ 「モトキ、てめぇは自分の力に過信したな、ポケモンを信頼していることはいいことだがてめぇ自信の力が伴わなければただそいつを傷つけるだけだぞ!?」
モトキ 「は……はい」
ネロ 「まぁいい、てめぇは言われた通り全力で掛かってきた、合格だ!」
モトキ 「う、うっす! ありがとうございます!」
モトキさんはポケモンバトルがよっぽどうれしかったのかちょっと浮かれ気味でそこが注意点だったけど、素直な所は高得点だったみたい。
皆も無理は良くないよ? 勝てないと思ったならギブアップ、これは決して悪いことじゃないからね?
ネロ 「さぁってと次は……」
フィーナ (うう……どの道当たる恐怖のロシアンルーレット)
まぁ、そんなわけで次回に続く。
第17話 完
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